戦後食用としての豚肉は日本人の貴重な蛋白源であり、経済復興を遂げる食生活の主役になるほど大事な食材でした。養豚養殖も餌作りに四苦八苦で、くず野菜や残飯を集める作業に追われる毎日だったといいます。それが昭和50年代に入り、瞬く間に「配合飼料」による欧米型飼育方法がひろまり、一気にくず野菜や残飯飼料を利用する日本の循環型杜会構造が崩壊しました。輸入配合飼料を使用し年々養殖規模が増大化し始めたのです。養豚養鶏などの畜産経営が簡易となり、畜産規模の拡大に拍車をかけることになりました。
かつて野菜くずや残飯を飼料としていた頃、養豚糞尿は貴重な肥料として、農家が養豚業者から購入していたほどです。重要なことは、野菜くずや残飯を飼料としていた糞尿が3~4ヶ月の発酵期間で堆肥化したことです。ところが配合飼料を使用してからは、養豚規模も数十倍増大し糞尿も野ざらしで3~5年の期間をかけなければ堆肥化されなくなり、事実上再利用が不可能になりました。合理性や便利さの追求が環境汚染を招いた典型例がここにもあったのです。
2005年5月某日、茨城県鉾田市の養豚業者が25年間豚糞尿を同市大竹海岸沿いの国有地に垂れ流し続けていたことが、地方紙に報じられました。異臭に耐えかねた近隣住民の告発によるものでした。1978年以降、国有地内約500平米に穴を掘り約500トンの糞尿が「ため池状態」になっているという。同県廃棄物対策課と畜産課の足並みがそろわず、有効な処置が取られていなかったことも背景にありました。
期するところがあり、その養豚業者に面談を申し入れました。聞くところによると、垂れ流しは止めることになるが、糞尿池をどうするかが問題。報道以来あらゆる業者から提案の申し出があったという。その中から当方の提案に対し、是非にと依頼を受ける形で浄化実験に取り組むことになりました。自然の自浄能力を重視する考えは、他のどの提案にもないユニークなものであったこと、またこれまでの取り組み方に信頼感を抱いたということでした。
状況は極めて劣悪でした。500トンということでしたが1000トンに達すると推定されました。はなはだしい悪臭が周辺を覆い、糞尿池の表面は黒くどろどろしており、所々糞尿が固まっている。
通常考えられる対応策は、機械導入による糞尿撤去や埋め戻しということになります。それに対し、糞尿を堆肥化し植物増殖による土壌還元を試みようと考えました。悪臭に関しては初期段階で除去できる自信がありました。
実験に際し、地元つくばケーブルテレビも関心を寄せ取材に立ち会うことになりました。実際一ヶ月にわたり固定カメラで撮影し糞尿池の変化を記録しました。
下の写真は、7月12日(左)と8月30日(右)の比較。ほぼ同じアングルで撮影。顕著な変化は2点。(1)糞尿の毒性に焼かれ茶色だった水際の植物が、緑に変わり勢いを得ている。(2)一面ヘドロ状の糞尿に覆われていた池の表面が、水分と固形物に分解。水分は池中央に集まり対岸の景色を映すまでになっている。(下左写真に固定設置したビデオカメラが見える。)